コラム:考察・視点
西牟田 靖
2025年11月26日、新興IT企業DDRが画期的なサービスを発表した。
スマホ調停「wakai for離婚」である。
「誰もがスマートフォン一つで調停を行うことができる、新しいオンライン離婚調整サービスとして設計されています」(的場令紋社長)
【 キーワード:調停 】
離婚問題に関する「調停」とは、家庭裁判所が関与し、調停委員を介して行われる法定の話し合い手続を指す。
サービスを作成する契機となったのは、2025年3月1日、「オンライン会議を使って離婚の調停や和解が成立できる規定を盛り込んだ(民事訴訟法などの)改正法」が施行されたことだ。これまでもリアルの場でおこなうADR(裁判外紛争解決手続)はおこなわれてきた。それをオンラインでおこなえるようになるODR(オンライン版の裁判外紛争解決手続)が解禁されたことで、裁判所やADRの場に直接出向くことなく、映像と音声を通じて調停に参加することが可能になったのだ。
アイタイムズの読者には、子どもと離れて暮らす立場にある人も少なくないだろう。再び子どもと会えるようになるため、面会交流(親子交流)調停を行ったことがあったり、または現在行っている人もいるはずだ。
そういった調停において、不調となってしまう原因としてよくあるのが、相手が「元のパートナーと関わりたがらない」というもの。加えて、調停そのものが月一回程度しかなく、その間に、関係がどんどんと冷え切っていくという悪循環に陥るというもの。そういった体験に苦しんだことのある方は少なくないはずだ。
このサービスはどんな特徴があるのか。それは、当事者にとって役に立つものなのか。サービスの特徴を紹介した後で、判断してみたい。

画像①:プレスリリースを行う的場社長
wakai for離婚アプリ。その特徴とは?
2025年11月26日、株式会社DDR主催によるローンチ説明会が開催された。この場において、的場社長は次のように語った。
「wakai for離婚は、時間や場所、心理的な負担によってハードルが高かった離婚手続きを、オンライン上で安心、簡単、公正に行う仕組みを提供するサービスです。利用者は、申し立てから、調停、合意書の作成まで、すべてのプロセスをオンラインで完結できます。特に大きな特徴として、専門の調停人弁護士が中立の立場で関与する点が挙げられます。一般的な離婚調停では一般人が調停員を務めるケースが多いのに対し、wakai for離婚では弁護士が調停を担当します。これにより利用者に対し安心できる中立的な進行が行うことが可能となります。また、非対面での話し合いが基本であるため、DVやモラハラなど、対面が困難なケースでも安心して手続きを進められます」
サービス利用の流れは、事前準備8ステップ、調停4ステップ、合意後2ステップと必要なプロセスが全て見える化されており、ユーザーが自身のタスクや進捗状況を把握しやすいようになっているという。
「入力項目は最小限に抑えられ、「メルカリのような」ボタン選択形式を採用することで、実質30分程度で申し立てが可能です」
身分証と顔照合による本人確認や、二要素認証を導入、虚偽の申し立てやなりすまし防止にも対応しており、セキュリティ対策もしっかりしているそうだ。
こうしたサービスを作った理由
社長である的場令紋氏自身、昨年、離婚調停を経験した当事者である。的場氏は、調停手続きを進める中で、自身の体験に基づいた「四つの不」を感じ、それが問題意識の出発点となった。それは、
- ①不足(情報の不足)
どのように進めるのか、手続きなど、情報が非常に不足しており、大きな不安を感じた。 - ②不便③不満(調停制度に対する不便・不満)
期日の話し合いが1~2か月に1回しか開催されず、必要な書類を提出しても、現行制度の設計上、残りの期間は待たなければならない状況に、不便と不満を強く感じた。 - ④不安(調停期間中の不安)
調停期間中、待っている間は長く、非常に不安だった。
司法アクセスの悪さ
こうした「四つの不」に直面するなかで、的場社長は手続きの複雑さや時間の長さに苦しんだ。さらに調停中は、基本的に子と会うことが出来ないのだ。
的場氏は、これらの個人的な苦い経験に加え、現行の日本の司法制度が抱える根本的な問題、すなわち、法的トラブルを抱えても、実際に裁判所などの法制度を利用できるのは「一部の人だけ」という「利用できない司法」の現実を痛感、多くの人が司法アクセスを奪われていると確信した。
「テクノロジーの力で、誰もが安心して、法にアクセスできる世界をつくりたい」
と。それこそが、wakai for離婚を作り上げる動機となった。
壁の克服
的場氏が感じた「四つの不」は、個人的な感情にとどまるものではない。それらは突き詰めると、現行の調停制度が抱える構造的な課題、すなわち「時間・費用・心理・距離」という壁に行き着いた。

- 時間の壁の克服
現行の離婚調停は申し立てから成立まで平均7.6カ月かかっていたが、wakai for離婚では時間を約9割削減することを目指す。調停人弁護士が1〜2週間以内で4つの日程候補を提示するため、1~2ヶ月先ではなく、迅速な日程調整が可能となる。また、平日夜間や土日でもオンラインで調整できる。 - 費用の壁の克服
弁護士に支払う交通費などを削減することで、費用を約8割削減し、平均80万円のコストダウンを目指す。 - 心理の壁と距離の壁の克服
裁判所に行く必要がなく、移動待機時間もゼロであり、心理的な負担も軽減される。
法的効力を確保する設計
wakai for離婚は、執行力のある調停を実現することも大きな特徴である。特定和解制度を利用し、法的拘束力を持たせ、強制執行が可能な形で合意書を作成できるのだ。
利用料金は、最小限の協議回数で合意に至った場合の最安コストは18万円
( 申し立て人、相手方合意時=3万円、期日調停(1回)=6万円、合意書作成=9万円)と一般的な調停に比べて、割安になっている。
今後の展開
このシステムの説明をここまで注意深く読んでもらえればおわかりだと思う。それは、現状においては、離婚時のオンライン調停にのみ対応しているということだ。今後はどうなるのか?面会交流(親子交流)などの調停に使えるようになるのか?
「wakai for離婚を単なるツールの提供に留めず、今後は相続や少額債権など紛争領域を拡大し、離婚前後の予防・事後支援も含めたデジタル司法インフラを構築することを目指します」(的場社長)
的場社長自身、離婚調停によって、苦渋を舐めたひとりである。しかもこのODR、会わずとも頻繁に、そして低額で行えるという、面会交流調停にフィットする特徴があるのだ。
とすればだ。DDRがwakai for離婚サービスを軌道に乗せれば、面会交流(親子交流)調停分野でのサービス開始に乗り出すに違いない。ぜひ今後に期待したい。


