特集:書評

ジャーナリストの書評コーナー

親子断絶を経験したジャーナリストが、自らの体験や取材を通じて出会った良書を紹介するコーナーです。

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タイトル:妻のトリセツ

著者 :黒川 伊保子

出版社:講談社+α新書

発行年:2018年

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タイトル:夫のトリセツ

著者 :黒川 伊保子

出版社:講談社+α新書

発行年:2019年

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タイトル:女の機嫌の直し方

著者 :黒川 伊保子

出版社:集英社インターナショナル

発行年:2017年

西牟田 靖

なぜ妻は夫を「排除」したのか――黒川伊保子『トリセツ』3部作が解き明かす、断絶のメカニズムと生存戦略

子どもに会えなくなってから、どれほどの時間が過ぎただろうか。 我々のように親子断絶を経験した親――とりわけ父親――にとって、別居や離婚に至るプロセスは、まるで出口のない迷宮を彷徨うような苦しみだったはずだ。

私自身、2014年春に当時3歳の娘との別離を経験した。「なぜ、あそこまで妻は怒っていたのか」「なぜ、私の言葉は届かなかったのか。言葉が足らなかったのだろうか」「なぜ、愛したはずの我が子から私を遠ざけようとするのか」。

このように自問自答し続けた。しかし答えは見つからない。それでも再会を信じて生き続けた。その日々はまさに生きた心地がしない抜け殻のような生活であった。

私同様に、その答えが見つからないまま、自責の念に苛まれたり、相手への憎悪を募らせたりしている同胞も多いことだろう。

今回取り上げるのは、黒川伊保子氏による『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『女の機嫌の直し方』の3冊だ。これらは世間では「夫婦円満のための実用書」としてベストセラーになっている。しかし、すでに家庭が崩壊し、子に会えなくなった我々が今さらこれを読んで何になるのか、といぶかしむ読者もいるかもしれない。

だが、あえて断言しよう。これらの本は、我々の結婚生活がなぜ「事故死」したのかを記した、検死報告書として読むことができる。 そして、生物学的な視点から「なぜ妻は夫を排除したのか」を理解することは、我々が抱えるやり場のない苦悩を鎮め、いつか来るかもしれない子どもとの再会の日に備えるための、極めて実践的な「武器」となるのである。

本稿では、これら3冊を「親子断絶の当事者」という視点から読み解き、我々が直面した悲劇の正体と、未来への教訓を探ってみたい。

1.「妻の豹変」はあなたの人格否定ではない

別居直前、あるいは調停の場において、かつて愛し合った妻から、まるで汚物を見るような目で見られたり、人格そのものを否定するような罵詈雑言を浴びせられたりした経験はないだろうか。多くの父親はそこで深く傷つき、「自分は父親失格なのだ」「人間として欠陥があるのだ」と自信を喪失してしまう。

しかし、『夫のトリセツ』において黒川氏は、衝撃的な事実を提示している。妻が夫に対して抱く激しい嫌悪感や攻撃性は、「女性脳の罠」であり、生物としての「生殖戦略」の一部であるというのだ。

黒川氏によれば、哺乳類のメスは妊娠・授乳・子育て期にはオスに守ってもらう必要があるため、特定の相手にロックオンする。だが、子育てが一段落すると、脳は「より免疫力の高い、より良い遺伝子」を求めて、「目の前の夫が癇に障る」ように仕向ける本能的なプログラムが発動する場合があるというのだ!

さらに残酷なのは「母性」の正体だ。我々男性は、母性を「海のような優しさ」だと幻想しがちだ。だが著者は断じる。「夫にはひどく厳しく、子どもやペットにはべた甘い」のが母性の正体であり、それは「子どもを育て抜くための生き残り戦略」であると。 妻は命がけで母親を生きている。そのため、資源(金や労力)を提供する者としての夫には厳しくなり、少しでも子育ての阻害要因(たとえば、家事を増やしたり、子どもを危険に晒したりするような鈍感な行動)とみなせば、徹底的に排除しようとする。

つまり、あなたが受けた拒絶は、あなたの全人格に対する否定というよりも、「母性という名の排他システム」が作動した結果、弾き出されたという側面が強いのである。 「神は、夫婦を別れさせようとしている」――『夫のトリセツ』の章題にあるこの言葉は、我々の胸に重く、しかしある種の救いとして響く。あなたの努力不足だけが原因ではない。生物学的な宿命という荒波に、我々の舟は翻弄されたのだ。

「妻のトリセツ」では、母性は「夫にひどく厳しく、子どもやペットにはべた甘い」のがその正体だと解き明かしている。

イメージ画像:取り扱い説明書

2.なぜ「対話」は成立しなかったのか

親子断絶に至る過程で、我々が最も絶望したのは「話が通じない」ことではなかったか。 論理的に説明しようとすればするほど相手は激昂し、過去の些細なミスを蒸し返され、最後には「もう無理」と遮断される。あの不毛なやり取りの正体も、本書は脳科学の視点から鮮やかに解き明かしている。

脳の「通信線」の違い

最大の問題は、男性脳と女性脳で「対話の目的」と「使用する回線」が根本的に異なる点にある。 男性脳は「ゴール指向問題解決型」であり、空間認知能力に長け、遠くの獲物や危険を察知して解決することに特化している。対して女性脳は「プロセス指向共感型」であり、半径3メートル以内の身近な存在の変化を察知し、共感し合うことで生存確率を高めてきた。

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