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本コラムについて
本コラムでは、支援の現場に携わる心理師が、家事事件で多発する「疑わしい主張」に対処するためのヒントを解説します。
綿谷 翔
PTSDを装った主張が起きる背景
家事事件の支援を担当していると、じつに多くの「精神疾患」の病名が飛び交っていることに気づきます。おそらく心理の専門家がこの状況を見たら顔を真っ青にして驚くことでしょう。なぜなら、そのくらい「精神疾患」の病名が裁判書類において飛び交っており、交渉を有利に進めるための「ツール」として乱用されている現実があるからです。もっと具体的に言うなら、精神疾患を「でっち上げる」ことによって相手側を「加害者」にする、そんな「戦略」が当たり前のように行われており、本来、被害者である立場の親が、まるで加害者のように扱われるケースが存在しているのです。
乱用されている代表格が「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」です。子どもの連れ去り別居を伴う離婚や親権・監護、面会交流などを争点とした家事事件において「PTSD」という病名が、当事者の主張を有利に進める道具として極めて安易に使われる事例が目立つようになっています。実際、支援の現場でも、「相手の暴力やモラハラによりPTSDになった」という主張が書面を通してくり返されるものの、きちんと確認すると証拠も乏しく、診断基準に照らしてもまったく該当しない――そのようなケースが多々あります。これは精神医療に少なからず携わる身としては、決して見過ごせない問題です。ですので本記事では、疑わしいPTSDを主張された際に、どのような視点から反論していくと効果的なのか、CAPS-5という評価尺度を後半で紹介しつつ、お伝えしようと思います。
そもそも、PTSDというのは、非常に重大な精神疾患です。それを軽く扱う風潮があること自体が大問題といえますが、裁判所が、精神疾患を悪用するようなことを見過ごしたままにしているのは、より大きな問題といえるでしょう。ましてや弁護士がPTSDという、人の一生を左右しかねない重大な精神疾患の有無を、交渉材料として活用しようとするなど絶対にあってはなりません。
では、なぜ「実態のないPTSD」が主張されるという、そのような事態が可能なのでしょうか。その背景には2つの原因があります。


