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ジャーナリストの書評コーナー
親子断絶を経験したジャーナリストが、自らの体験や取材を通じて出会った良書を紹介するコーナーです。
西牟田靖
📖 書籍情報
タイトル:男たちの意識革命
著者:下村満子
出版社:朝日文庫
発行年:1986年
45年前のアメリカと今の日本。その置かれた状況を比較する
1960年代後半、アメリカから始まったウーマン・リブ運動。家庭から出てキャリアウーマンとなったり、離婚し夫と子を引き離したり。それは、女たちが、自由を手に入れていく課程で成し遂げられた、女性の意識革命だったと言えるのかもしれない。
一方で、その運動は男たちにも大きな影響を及ぼした。ゲイの地位向上を求め立ち上がる男性がいたり、父子家庭が激増したり。それを受け、1970年代後半以降、全米でメンズ・リブ運動が展開されていった。
運動の中心となったのが、子供に会えなくなった男性たち。1970年代後半、カリフォルニアで共同養育を求めて父親が州を提訴したのをきっかけに、全米各地に男性の団体が生まれ、それが統合される形で、1980年代に入ると、全米各州で「共同養育」・「共同親権」へと法律改正されていく。
本書は二部構成。第二章はゲイ男性たちの地位向上などにページが割かれており、本ウェブサイトと関係が薄いので、ここでは第一章のみ触れる。
関連部分の目次(2章は省く)
1章 シングル・ファーザー
- ・妻に捨てられた男の悲痛な告白
- ・ある日突然、「自由」を求めて去っていく妻
- ・不当な離婚判決に苦しむウィークエンド・ファーザー
- ・「父親解放運動」に一生を捧げる男
- ・〝弱き男〟を支えるセカンド・ワイフたち
- ・「男」の権利のために法律を変えさせた執念
- ・子は〝かすがい〟より、〝生きがい〟の男たち
- ・〝誘拐罪〟にも臆せず養育権を勝ち取った父親
- ・ようやく見直され始めた子供たちの「権利」
- ・子育てを体験して開眼した「男の哲学」
著者について
執筆者は、1980年代、朝日新聞社の記者だった下村満子氏。
当時は「朝日ジャーナル」の編集長を歴任したり、「朝まで生テレビ!」に出演したりする有名記者の一人であった。
そんな彼女が半年かけて、全米各地を歩いて記したのがこのルポである。
朝日新聞といえば、シングルマザーを擁護したり、DV問題を積極的に取り上げたりする一方で、子の連れ去り問題や共同親権に関しての報道はかなり淡泊な印象。
それだけに、過度に女性に肩入れした内容の本なのではないかと思い、そんなに期待せずに読み始めた。
するといい意味で裏切られた。
本書は、今後の日本の親子に関する法律のあり方、その向かうべき道筋を示している。
※補足
なお、アメリカでは、日本のように親権と監護権(養育する権利)という風に厳密にわけていない。その点において注意する必要がある。
メンズ・リブ運動との出会い
物語は、1981年、飛行機の中から始まる。

ロサンゼルス発ニューヨーク行きのアメリカン航空に搭乗した下村。その際、隣に乗り合わせたのが42歳男性、ジム・シュナイダーであった。しばらくたって話しかけた下村は「最愛のガールフレンドに会うのが第一の目的」と言われ、6歳になる実の娘の写真を見せられる。ニューヨークに暮らす彼は、2週間に及んだ娘との生活を終え、帰途についたばかりだったのだ。
2週間の間、ジムは娘とモーテルに住み込んだ。娘はそこから学校に通い、料理や洗濯などもふたりで行った。そんな父子水入らずの生活について話すジムに対し、下村は指摘する。
「そんなことができるのは、よほど平和な離婚だったからなのでしょうね」と。
しかし実際は違っていた。一時、自殺を考えるほどの4年にも及ぶ、壮絶な法廷闘争を戦い抜いた末に、彼は、年2回、合計一ヶ月の娘の保護養育権(養育する権利。日本で言う親権も含む)を勝ち取ったのだった。


