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ジャーナリストの書評コーナー
親子断絶を経験したジャーナリストが、自らの体験や取材を通じて出会った良書を紹介するコーナーです。
西牟田 靖
📖 書籍情報
タイトル:「家族の幸せ」の経済学
著者:山口慎太郎
出版社:光文社新書
発行年:2019年
概要
本書では、結婚、出産、子育てといった家族のテーマを、経済学の視点から科学的に分析している。特徴的なのは、様々なデータを用い信頼性の高い知見を提供しているということだ。それまでなんとなく信じられてきた、巷に溢れる根拠不明なアドバイスや個人的な経験談、それらに対し、国勢調査などの公的調査、社会実験、マッチングサイトなどのデータを駆使し、それらが迷信であることを示すのだ。
本書は、家族の各ライフステージ別に構成されている。
第1章=結婚。晩婚化や生涯未婚率の進行を統計で示したり、女性が夫に家事・育児能力を重視する傾向を指摘したり、マッチングサイトのデータから「モテ要素」や似た者同士が結婚する傾向を明らかにしたり。さらには費用節約、分業の利益、リスク分かち合いといった経済的メリットが結婚にあると指摘。
第2章=出産。低出生体重児の増加が健康や将来の所得に影響を与えうる可能性に触れたり、働く女性の子どもは低出生体重児になりやすいという事実を示したり。そのほか、帝王切開や母乳育児に関する「真実」と「神話」を解き明かしたり、母乳育児の健康メリット(胃腸炎や湿疹の減少)などについても触れたりしている。
第3章=育児休業。「日本の育休制度は諸外国と比べて遜色ない充実度である」と指摘。1年程度の育休がお母さんの就業を助ける一方、3年間の育休は追加的な効果が薄いというふうに分析している。
第4章=父親の子育て。日本と北欧の男性育休取得率を比較。日本が5%と極めて低いのに対し、北欧では7割の父親が取得しているという実態を示す。上司や同僚の育休取得が「伝染」することを、著者本人のノルウェー滞在の経験から、力説。父親の育休取得が収入減につながる可能性と、その後の家事・育児時間が増える可能性、その両面を提示。
第5章=保育園の役割。幼児教育が子どもの認知能力だけでなく、社会情緒的能力の改善にも大きく寄与することを指摘する。恵まれない家庭の子どもや母親の幸福度・しつけの質にプラスの影響をもたらすことを、自身の研究で明らかにする。また、虐待の抑止力にもなりうると指摘する。
第6章=離婚の経済学。「家族の幸せ」を考える上で、離婚が決して例外的な選択ではないことを示す。また、離婚をめぐる法制度が家族の行動や幸福に与える影響を深く掘り下げている。
書評

本サイトに深く関係することなので、以下、深掘りする。
結婚のメリットが失われた時に夫婦が離婚を希望する――という経済学の基本的な考え方を紹介。巷で言われる「3組に1組が離婚する」という離婚率の捉え方には統計的な誤解があることを指摘し、正しい離婚率の解釈を読者に促している。また、離婚率を国際比較、日本の離婚率はOECD平均よりやや低い水準にあることを示してもいる。


