ジャーナリストの書評コーナー

親子断絶を経験したジャーナリストが、自らの体験や取材を通じて出会った良書を紹介するコーナーです。

西牟田 靖

書籍表紙

📖 書籍情報

タイトル:ステップファミリー 子どもから見た離婚・再婚

著者 :野沢 慎司・菊池 真理

出版社:角川新書

発行年:2021年

書評

本書は、親の離婚と再婚によって生じるステップファミリーの現実を、特に子どもの視点から深く問い直す画期的な一冊である。著者である野沢慎司氏と菊地真理氏は、20年にわたる共同研究の成果をもとに、本書を書き上げた。

日本の法制度や社会の「常識」が、ステップファミリーの子どもと大人に深刻な困難をもたらしていることを著者は指摘する。その上で、子どもが両親との関係を失わずに育つための新しい家族モデルと、それを支える制度改革を提言しているのだ。

子と別れて暮らす親が、今後、どのように社会に受け入れられるべきなのか、別居親の存在が、社会の中でどのようにノーマライズ(一般化)されるべきなのか。その重要な論拠を提示しているといえる一冊。

第一章 家族の悲劇をどう読むか ── 虐待事件の背景にある離婚・再婚

本章が、主題として取り上げるのは、2018年、東京都目黒区で起きた船戸結愛ちゃんの虐待死事件である。

この事件の加害者は血のつながりのない継父であった。彼は公判で「血のつながりがないことを負い目に感じ」、それをはね返そうとしつけを厳しくしたと陳述している。一方、母親は継父の側に立ち、結愛ちゃんからの救助のメッセージを遮断してしまった。継父と実母は、「お父さん、お母さん、娘」という憧れの家族、いわゆる「ふつうの家族」の理想を無理に追い求めた結果、起きた悲劇であったといえる。

千葉県野田市で起きた血縁親による虐待事件も、家族生活の変遷や関係の構造が目黒区の事件に酷似している。心愛ちゃんの父親は血縁があるが、経緯を見れば「血縁のある継父」に近い立ち位置にあることに気づく。 このような従来の「ふたり親→ひとり親→ふたり親」路線は、子どもの福祉を大きく損なうリスクをはらむ。ステップファミリーの現実を見ようとしない社会全体の固定観念が、虐待のリスクを高める社会的な背景要因である。虐待事件は他人事ではなく、固定的な「常識」にとらわれない見方が必要だと提言する。

第二章 離婚・再婚の変化と「ふつうの家族」

日本では親の離婚を経験する未成年の子どもが急増しており、2018年にはその数が約21万人に上っている。子どもが親の離婚を経験するリスク(確率)は、この半世紀あまりで五倍以上に跳ね上がった。

近代以前の日本は離婚・再婚に寛容な社会だったが、明治以降の家父長制や教育により離婚・再婚を否定・抑制する価値観が台頭した。戦後の高度経済成長期に、初婚継続の夫婦が性別役割分業に基づく核家族が「ふつうの家族」として標準化された。現代では、恋愛や幸福追求を理由とする離婚が増加している。

日本の離婚では、約85%で母親が単独親権者となる。親権を失った親と子の関係は大多数で途絶えている現状がある。協議離婚制度が公的機関の関与がない「無法地帯」であると指摘される。

本書は、親の視点に偏る「子連れ再婚家庭」ではなく、中立的で多様な家族状況を包含する「ステップファミリー」という名称の必要性を強調する。ステップファミリーとは、継親子関係を含む家族、または親の新しいパートナーとの関係をもつ子どもがいる家族と定義されている。

日本は単独親権制を維持しており、国連「子どもの権利条約」が保障する「子どもが親を失わない権利」に反している。世界は共同親権・共同養育へと移行しており、日本は国際社会から厳しい批判を受けている状況だ。

第三章 「ふたり親家庭」を再建する罠

この続きを見るには
続き: 2,031 文字 / 1 画像

サブスクリプション