彼に許された時間はわずか10分。その貴重なひととき、ついに1歳半の娘が目を覚ました。それまでは、ベビーカーですやすやと眠る寝顔をのぞき込むだけ。まるで、ずっと追いかけている「推し」にようやく会えた心境。そんな交流が叶ったのは2025年春のことだった。

アイタイムズジャパン編集部

ある日、家族がいなくなった

2023年秋、娘が誕生し、晴人(はると)さん(仮名・40代)は父親になった。まさに幸せの絶頂 ―― のはずだった。

それから約1か月後。いつものように仕事から帰宅すると家の中は静まり返っていた。「あれ?靴がない」
部屋に入ると妻と娘がいない。慌ててスマホを取り出し妻にLINEで連絡を試みた。やっと繋がったと思ったら、妻は「一回うちのお父さんと話して」と言ってきた。そのとき初めて、妻が娘を連れて実家に戻っていることがわかった。

母親への支援が標的に

話は妙な方向へ向かっていった。電話の向こうから聞こえたのは、義父の怒鳴り声だった。「親に金送ってるらしいな、そんなもん聞いてへんぞ!どうしてくれんねん!」

怒りの矛先は、晴人さんが支援していた母親の医療費や入所中の生活費だった。彼の母は脳梗塞で倒れ、退院後はリハビリ施設に入所していた。わずかな年金だけでは足りず、晴人さんが不足分を補っていた。それでも母は、孫を抱きたい一心で驚くほどの回復を見せていた。状態が安定し、自宅でデイサービスを利用する生活に移る目前だった。

事情を結婚前に説明し、妻の了解も得ていた。母が近いうちに自宅に戻るから、支援が減る見通しも伝えていた。しかし義父は「そんなもん聞いてへんぞ!」と、晴人さんの話を聞こうともしなかった。

家庭を守るために、涙を流した

晴人さんは翌日、母に電話をかけた。「母さんの事で揉めてる、どうすればいいか、わからへん…」
電話口の向こうで、母はこう言った。「今までありがとう。もう送らんでいいよ、生活保護でもなんでも受けるわ、あんたは、自分の家庭を大事にしなさい」── 晴人さんは泣いた。息を詰まらせて泣いた。

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