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アイタイムズ編集部
「クレイマー、クレイマー」は、1980年に米国アカデミー賞5部門を受賞した、今もなお多くの人々に語り継がれる名作映画です。離婚によって親子の絆が揺らぎ、親権を巡る争いが繰り広げられる中、主人公たちの葛藤と成長を描いています。この作品が投げかける問いは、現代の日本社会が抱える問題と重なる部分が多いと言えるでしょう。
今回は、この映画を振り返りながら、日本人と結婚したアメリカ人ケビンさんのケースを通して、現代社会の課題について考えてみたいと思います。
クレイマー、クレイマーのあらすじ

主人公のテッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)は、ニューヨークに住む広告代理店勤務の一児の父親です。物語は、彼の妻ジョアンナ・クレイマー(メリル・ストリープ)が「自分の人生を立て直す」ために家を出ていくところから始まります。これまで仕事中心の生活を送っていたテッドでしたが、幼い息子ビリーの世話を一手に引き受けることになります。最初は戸惑いながらも、父親としての役割を果たし、息子との絆が深まっていく様子が描かれます。
ところが、1年半後、ジョアンナが戻ってきて、ビリーの親権を求めて裁判を起こします。当時のアメリカ社会では「母親が育児をすべき」という考えが主流で、裁判はジョアンナに有利に進みます。テッドは父と子がどれだけ強い絆で結ばれているか主張しますが、裁判所はジョアンナに親権を与える判決を下します。このまま息子は母親の元に引き取られるかと思われましたが、物語の最後でジョアンナは、テッドとビリーの強い絆を尊重し、息子の幸せを第一に考え、彼を父親のもとに残す決断をします。
この映画が描く一つの側面は、当時のアメリカの「単独親権制度」がいかに親子に悲しみを与えるかという問題です。テッドは、ジョアンナが去った後に父親としての責任を果たし、ビリーとの関係を築いていくにもかかわらず、法廷では依然として「母親優位」の状況が続いています。『クレイマー、クレイマー』は、「単独親権制度」の限界や当時の司法実務における「母親優位の慣行」の問題点、そして「父親の育児参加の重要性」を強調し、共同親権制度導入の流れを後押ししました。もしこの時既に「共同親権制度」がアメリカで一般的になっていれば、父母は親権を共有し、全く違ったストーリーとなったでしょう。
ケビンさんのケース ─── 現代日本における親権の問題
ケビンさんはアメリカで日本人女性と結婚し、2018年に離婚しました。離婚後、元妻は息子を連れて日本へ帰国しましたが、父親として息子との関係を保つ努力を続けていました。離婚時の取り決め通り、元妻も親子の交流に協力的だったといいます。ケビンさんはコロナ禍にもかかわらず、日本に来て厳しい検疫手続きを経て、交流を続けていたのです。

プライバシー保護加工
しかし、2022年の夏、状況は一変します。息子が転倒してケガをした事を口実に、元妻は「息子の人生にあなたは不要だ」と言い、連絡を完全に遮断したのです。日本の単独親権制度の下では、この決定が合法とされており、ケビンさんは法律の壁によって、会うことはおろか電話すら出来なくなりました。