コラム:考察・視点

筆者について

筆者であるコピーライターの中新大地は、両親の離婚を機に、家族との距離や関係性のあり方について考えてきた経験を持つ。
書き伝えることを生業としながら、多角的な視点で家族をめぐる問題を言語化している。

中新大地

離婚や別居をきっかけに、子どもと一方の親が会えなくなる「親子断絶」。

近年、この言葉はメディアや政策議論の中でも取り上げられる機会が増えています。しかし、「なぜ起きるのか」「本当に増えているのか」といった基本的な理解は、必ずしも十分に共有されているとは言えません。

本記事では、親子断絶という概念を整理したうえで、日本で起きやすい制度的背景や社会的構造、さらに近年注目されている理由について、多角的な視点から解説します。

親子断絶とは何か

「親子断絶」とは、法律上に明確な定義がある言葉ではありません。一般的には、離婚や別居の後に、子どもと一方の親が継続的に接触できない状態を指して用いられます。

※なお、インターネット上の検索では「親子分離」という言葉もヒットすることがありますが、これは子どもの成長過程のひとつであり全く別の言葉です。

具体的には、面会交流が長期間行われていない場合や、連絡自体が取れなくなっているケースなどが親子断絶に含まれます。ただし重要なのは、「会っていない」という事実だけではなく、関係性そのものが途切れている状態を含んでいる点です。

たとえば、物理的には会う機会があったとしても、子どもが心理的に距離を感じていたり、親子としての関係が希薄になっていたりする場合も、広い意味での断絶と捉えられることがあります。つまり親子断絶とは、単なる接触頻度の問題ではなく、関係性の質に関わる概念だと言えます。

日本で親子断絶が起きやすい制度的背景

日本において親子断絶が議論される背景には、制度的な特徴が大きく関係しています。その一つが、離婚後の親権制度です。

日本では、離婚後は原則として父母のどちらか一方のみが親権を持つ「単独親権」が採用されてきました。そのため、子どもと同居する親が生活全般の意思決定を担い、もう一方の親は面会交流など限られた関わり方になります。

面会交流については法律上の位置づけはあるものの、実務上は必ずしも円滑に行われているとは言えません。家庭裁判所の調停や審判を経ても、実際には交流が継続されないケースも一定数存在します。司法統計によれば、面会交流に関する調停事件は毎年多数申し立てられており、一定の紛争性があることがうかがえます。

離婚・別居後の子どもたちを対象に行った調査(*1)によれば、「取り決めをしていない」は37.7%,「父母のみで取り決めを行った」は20.0%,「あなたも一緒に取り決めを行った」は7.3%,「裁判所で取り決めを行った」は5.1%との数値が出ています。
面会交流の継続については、5歳時点で「続いた」は67.2%、「なくなった」は32.8%。10歳時点で「続いた」は72.3%、「なくなった」は27.7%。15歳時点で「続いた」は64.7%、「なくなった」は35.3%となっており、6割が続き、3~4割で交流がなくなっていることがわかります。
なお、本調査では面会の頻度・時間なども言及されていますが、子どもの年齢が上がるとともに減少する傾向にあることがわかっており、親子の交流を継続させることの難しさが伝わってきます。
※文末に出典を記載していますので、詳細はそちらをご参考ください

また、日本の裁判実務では「現状維持」が重視される傾向があります。別居後に子どもと生活している親の状況が継続されやすく、その結果、もう一方の親との関係が固定的に希薄化することがあります。このような制度と実務の組み合わせが、親子断絶を生みやすい構造の一因と指摘されています。

制度だけで語れない親子断絶が生まれる構造

もっとも、親子断絶は制度だけで説明できるものではありません。実際には、複数の要因が重なり合って生じています。

まず大きいのは、親同士の関係性です。離婚や別居に至る過程では、感情的な対立や信頼関係の崩壊が起きていることが少なくありません。その状態で面会交流や共同での子育てを続けることは、当事者にとって大きな負担となります。

また、心理的な要因も無視できません。一方の親が「子どもを守るために距離を取るべきだ」と考える場合もあれば、もう一方の親が「拒絶された」という感情を強めてしまう場合もあります。こうした認識のズレが、関係の修復を難しくします。

さらに、子ども自身の適応も関係します。子どもは生活環境に順応しようとするため、同居している親に合わせた行動を取ることがあります。その過程で、もう一方の親との関係が自然と遠ざかっていくケースもあります。これは必ずしも意図的なものではなく、環境への適応の結果として起きることが多いとされています。

なぜ「増えている」と言われるのか

親子断絶について、「近年増えている」と語られることがあります。ただし、これを単純に数の増加として断定することは難しい側面があります。

一つの背景として、離婚件数や家族形態の変化があります。厚生労働省の人口動態統計によれば、日本の離婚件数は長期的に見ると一定の水準で推移しており、離婚後の親子関係に関する課題が可視化されやすくなっています。
離婚率の推移では、2002年(平成14年)の2.3がピークであり、その後は減少傾向に。当時年間約28万9000件もあった離婚は、2024年には18万5895件にまで減少しています(*2)。
もっとも、婚姻数の減少や別居も含めた、家族の形も多様化していることから、離婚が減少していても、親子関係が良好であることが増えていることの証明にはならないでしょう。

とくに近年は、情報発信の環境の変化も影響しています。SNSやインターネットメディアの普及により、当事者が自らの経験を発信する機会が増え、それがセンセーショナルかつ、広く拡散されるようにもなりました。これまで表に出にくかった個別の事例が多くの人々に共有されることで、問題がより身近なものとして認識されるようになっています。

さらに、政策議論の活発化も一因です。離婚後の親権制度や共同養育のあり方については、近年国会や専門家の間で議論が進められており、報道で取り上げられる機会も増えています。こうした動きが、「問題が増えている」という印象につながっている側面もあります。

海外との違いから見える日本の特徴

親子断絶の問題を考える際、海外との比較も一つの視点になります。

欧米諸国では、離婚後も父母双方が親として関わることを前提とした制度が採用されているケースが多く見られます。いわゆる共同親権や共同養育の考え方です。

一方、日本では、すでに述べてきた通り、単独親権が基本とされてきました。そのため、子どもの生活拠点は一方の親に集約されやすく、もう一方の親との関係は補助的な位置づけになりやすかったのです。

また、家族内の役割分担や社会的な価値観も影響しています。特定の親が主に養育を担うという考え方が根強い場合、離婚後もその構造が維持されやすくなります。こうした制度と文化の組み合わせが、日本における親子関係のあり方に特徴を与えています。

親子断絶は「誰の問題」なのか

親子断絶は、しばしば親の問題として語られます。たとえば、「どちらの親が悪いのか」という形で議論されることも少なくありません。

しかし、この問題の中心にいるのは子どもです。子どもにとっては、親同士の対立や制度の違いよりも、日常生活の中でどのような関係を築けるかが重要になります。

同時に、この問題は個人の努力だけで解決できるものでもありません。制度、社会的支援、当事者の関係性といった複数の要素が絡み合っているため、単純な解決策を見出すことは難しい領域です。

その意味で、親子断絶は「親の問題」であると同時に、「社会の問題」でもあると言えます。

親子断絶を理解するために必要な視点

親子断絶は、単純な善悪や一つの原因で説明できる問題ではありません。制度的な要因、心理的な要因、そして個々の家庭の事情が複雑に重なり合っています。

また、「増えている」という印象も、実態の変化だけでなく、社会的な関心や可視化の進展によって形成されている側面があります。

重要なのは、この問題を単純化せず、多層的に捉えることです。制度の理解とともに、当事者の現実や子どもの視点にも目を向けることで、初めて全体像が見えてきます。

親子断絶をめぐる議論は、今後の家族のあり方を考えるうえでも重要なテーマです。感情や立場の違いにとらわれすぎず、構造的な理解を積み重ねていくことが求められるのではないでしょうか。

出典一覧

(*1)早稲田大学法学学術院教授 棚村政行『家族法制部会 参考資料9-1 子の養育の在り方に関する実証的調査アンケートの概要』2021

(*2)朝日新聞社運営の離婚情報ポータルサイト 離婚のカタチ『日本の離婚率(割合)【最新版】 増えてる? 原因やケース別についても紹介』2025

日本の離婚率(割合)【最新版】 増えてる? 原因やケース別についても紹介 | 離婚のカタチ

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